【2022夏・大日岳登山ツアーレポート】(第13回)

奥大日岳までは難所の連続

次に目指す奥大日岳ピークは、ここから約3時間半という道のり。アップダウンが続き、はしごや鎖場がある難所が続きます。

雨のため、進むスピードは通常の70%ほど。前後の人と声を掛け合いながら、危ない場所を共有。みんなで協力して、怪我のないように細心の注意を払います。

道幅が狭く、座れるような開けた場所も少ないので、休憩は安全な場所で立ち止まる程度。雨のためスマホでの撮影もほとんどできず、黙々と進んでいきます。

数時間歩いていると、雨の登山も楽しいと思えてくるから不思議。フードに落ちる雨音が心地よく、濡れた土の香りも漂ってきて、なんだか五感が研ぎ澄まされたような感覚に。よほどの土砂降りでない限り、雨登山も案外いいものです。

(この事業は環境省補助事業で実施いたしました。)

明日へつづく・・・

文:まついただゆき

写真:下城英悟

【2022夏・大日岳登山ツアーレポート】(第12回)

三日目:大日岳から室堂へ。

「雨の9時間縦走」で気分は修行僧

初心者には過酷な雨登山のはじまり

最終日は5時に起床。前日は9時台には寝ていたため、目覚めもすっきり。美味しい朝ごはんをしっかり頂いて、ツアー終盤戦に挑みます。

「今日は中大日岳、奥大日岳の2つのピークを超えて、室堂までの縦走となります。雨が降っているので、体温を奪われないよう対策をしっかりしましょう」と佐伯さん。幸い、風害も出ずに台風をやり過ごすことができましたが天気はあいにくの雨。

最初の2日間とは打って変わって気温は10度。参加者たちも上下レインコートに着替え、足元にはゲイターを着ける人も。この時点では小雨ですが、この先の雨量は想像もできません。常に備えておくことも、登山には大切な心構え。

6時30分、外に出て準備体操。昨日は目の前に劔岳がそびえていましたが、ガスで真っ白。何も見えません…。

色とりどりのザックカバーが連なる光景は雨登山ならでは。足元が滑りやすくなっているため、今までよりも慎重に。地面を踏みしめながら、ゆっくりと登っていきます。

スタートから15分ほどで標高2500mの中大日岳ピークに到着。頂上エリアが狭いため、全員で乗ることはできず…でしたが、ツアー2つめのピーク達成ということで記念撮影。

さらに先へ15分ほど進むと、前日に訪れた「七福園」に到着。ですが、こちらもガスの影響でご覧のとおり。立山曼荼羅で描かれたという素晴らしい景色が全く見えなくなっていました。昨日のうちに見ておけて本当にラッキー。

(この事業は環境省補助事業で実施いたしました。)

明日へつづく・・・

文:まついただゆき

写真:下城英悟

【2022夏・大日岳登山ツアーレポート】(第11回)

二日目の締めはアコースティックライブで

「大日小屋」に戻り、夕食までの時間を自由に過ごします。夜からは雨予報ということで、空には少しずつ雨雲が広がってきましたが、剱岳を眺める特等席に座って束の間の休足。

午後6時。ランプの灯りがムーディーな食堂に集まってみんなで夕食。この日の料理は「大日小屋」の人気メニューのハンバーグ。ビールを片手に、ここまで大きなアクシデントやトラブルもなく過ごせたことに乾杯します。

ちなみに、この日は台風の影響を考慮してすべての窓に木の板を張っていました。そのため、外光が遮断された状態ですが、通常は食堂の窓からも剱岳が眺められます。

夕食が終わると「大日小屋」のオーナー杉田さんによるアコースティックライブがはじまりました。

杉田さんはギター製作家としても活動されていて、不定期ですが食後にライブを開催することが多いとか。壁にかかっているギターも、すべて杉田さんが関わった逸品です。

標高2425mの山小屋で、薄暗い間接照明の中で繰り広げられるライブに参加者一同も大盛り上がり。ほかの山小屋では味わうことができない特別な経験は、立山登山の思い出として一生残るものになるでしょう。

(二日目終了)

(この事業は環境省補助事業で実施いたしました。)

明日へつづく・・・

文:まついただゆき

写真:下城英悟

【2022夏・大日岳登山ツアーレポート】(第10回)

立山曼荼羅の世界観を「七福園」で学ぶ

続いてやってきたのが、「大日小屋」から30分ほどの距離にある「七福園」。予定だと三日目の行程に組み込まれていた立山曼荼羅を見ながらの講義を台風の影響で前倒しにしました。

「七福園」は大日岳縦走路の途中にある箱庭のような場所で、「ここから見た景色こそが立山曼荼羅の世界観です」と佐伯さんは言います。

立山曼荼羅とは江戸時代に立山の麓・芦峅寺の宿坊の主人たちが立山信仰の布教のために持参して全国を行脚した絵図のこと。当時のものは51種類現存していて、この日の立山曼荼羅は佐伯さんが地元の学生たちと一緒に現代風にアレンジしたもの。ここに描かれる風景がすべて「七福園」から見ることができるそうです。

「昔の修験者たちは六根清浄(ろっこんしょうじょう:人間に具わった五感と意識を清らかにすること)を合言葉に、大日岳を登って修行に励んだと言われています。七福園の周辺では、平安時代の銅錫杖の一部が見つかっていて、その頃から立山は修行の場になっていたと推測されています」と佐伯さん。快適な登山道具やウェアなどがない時代、修行のために過酷な登山をしてきたといういにしえの修験者たちに思いを馳せました。

(この事業は環境省補助事業で実施いたしました。)

明日へつづく・・・

文:まついただゆき

写真:下城英悟

【2022夏・大日岳登山ツアーレポート】(第9回)

お散歩気分で大日岳ピークへ

まず向かったのが、目と鼻の先にある大日岳の山頂。ここは大日尾根の西端にあるため、頂上からは360度のパノラマが楽しめる絶景スポットです。「大日小屋」からは15分ほどでアタックが可能なので、食後の運動にもちょうどいい距離。

荷物を山小屋に置いてきたこともあって、参加者たちは軽い足取り。後ろを振り返れば手前に山小屋が見え、その奥には奥大日岳、雄山、剱岳までが一望できる絶景が広がります。

今回のツアーで1つ目のピークに到着。圧巻の大パノラマを前に、参加者たちも興奮気味。しばしの間、絶景を楽しみつつ、立山連峰を背景に集合写真を撮影。みなさんいい笑顔ですね。

(この事業は環境省補助事業で実施いたしました。)

明日へつづく・・・

 

文:まついただゆき

写真:下城英悟

【2022夏・大日岳登山ツアーレポート】(第8回)

真正面に剱岳が鎮座するランプの小屋

11時30分、この日の宿泊場所となる「大日小屋」に到着しました。標高2425mに位置する「大日小屋」は、大日岳の麓にある通称“ランプの小屋”。

夜になると食堂がムーディーなランプの灯りで満たされ、ギター演奏と美味しい料理に舌鼓が打てることで人気の山小屋です。稜線上の小屋のため、水はとても貴重。風呂やシャワーの用意はありませんが、それ以上に特別な体験を味わうことができます。

また、晴れた日には真正面に剱岳が望める最高のロケーション。ここまで自分たちの足で登ってきたことを称え合い、まずは記念撮影。ここまでくっきりと剣岳が見えるのは、かなりの幸運のようです。

昼食は「大日小屋」に用意していただいたカレーときつねうどんを堪能。早朝から約4時間の登山の後に食べる食事は胃に染み渡ります。腹ごしらえを済ませたところで午後の行程へと移ります。

(この事業は環境省補助事業で実施いたしました。)

明日につづく・・・

文:まついただゆき

写真:下城英悟

【2022夏・大日岳登山ツアーレポート】(第7回)

二日目:大日平から大日岳へ

絶景が広がる大日岳へのルート

二日目は6時に起床。「大日平山荘」は山小屋というより旅館のような居心地の良さで、ぐっすり眠ることができました。おかげで前日の疲れもスッキリ。晴天にも恵まれましたが、台風が接近している影響で風は朝からかなり強めです。

朝食を済ませて準備運動を終えたら7時に出発。「今日は4時間かけて標高2425mにある大日小屋を目指します。高低差は昨日と同じくらい。今日も上り道が続きますが、素晴らしい景色が待っているので期待してください」と佐伯さん。

木道を歩きはじめるとすぐに、大日岳を正面に眺められる大きな湿原に入ります。紅葉には少し早い季節でしたが、山々の稜線と真っ青の大きな空が拝めるだけで、足取りは自然と軽くなります。しばらくはなだらかな道が続くので、朝の足慣らしにもぴったり。

登山道のまわりにはアザミやオヤマリンドウといった高山植物も咲いていて、その度に女性参加者たちはスマホで撮影タイム。のんびりとのどかな山時間を楽しみながら先へと進んでいきます。昔の修験者たちも、道端に咲く高山植物に束の間の癒しを得ていたのかも知れません。

午前9時。登り始めて2時間で予定していた中間地点に到着。「今日はいいペース。風が強いので、帽子が飛ばされないように注意しましょう」と佐伯さんが言うとおり、朝よりもだいぶ風が強くなってきました。風通しのよい道だと体ごと吹き飛ばされそうになるほどなので、細心の注意を払って進みます。

このあたりまで来ると眼前には大日平が広がり、遠くに宿泊した「大日平山荘」が見えるように。あまりの絶景に参加者一同も思わずパチリ。一日目の木々に囲まれた急な上り道とは打って変わって、大日岳へのルートは本当に景色が最高でした。

そこからさらに1時間ほど。岩場などを超えていくと、ようやく赤い屋根が目印の「大日小屋」が見えてきました。ここまで来ればもうひと踏ん張りです。

(この事業は環境省補助事業で実施いたしました。)

文:まついただゆき

写真:下城英悟

【2022夏・大日岳登山ツアーレポート】(第6回)

のどかな山小屋で満点の星空に包まれる

午後4時、「大日平山荘」に到着しました。部屋は6畳の個室が5つあり、3名ずつで利用することに。水も無料でトイレは水洗、シャワーも使えるとのことで、まずは交代で汗を流していくことになりました。

シャワーの待ち時間はビールで乾杯。みなさん道中楽しみにしていたご褒美を手にして満面の笑み。

夕食のメインはなんとゴーヤチャンプル。「オーナーは沖縄に住んでいたこともあるので絶品ですよ」と佐伯さんも太鼓判の一品です。初日の疲れを労い、翌日の行程を確認したうえで、自由時間となりました。

小屋の裏には徒歩30秒で行ける不動滝展望台も。称名谷へ落ち込む崖の縁まで行くことができ、ここからの眺めは絶景。

夜になると、2階の個室からは富山湾や市街地の夜景が眺められます。晴れた日には満点の星空が広がり、運が良ければ流れ星も見ることも。まったり、のんびりとした時間を過ごしながら初日の行程は無事に終了となりました。

(一日目終了)

(この事業は環境省補助事業で実施いたしました。)

文:まついただゆき

写真:下城英悟

【2022夏・大日岳登山ツアーレポート】(第5回)

湿原「大日平」で大自然を感じる

「牛の首」を超えると標高1500mの「大日平」に到着。ここは湿地の保存に関するラムサール条約にも登録された湿原で、きれいなモウセンゴケやワタスゲといったレアな高山植物も咲いています。

広大な景色も見渡せるようになり、拭き拭ける風は自然のクーラーのように気持ちいい。ようやく「北アルプスに来た!」という実感も湧いてきて、参加者たちの足取りも軽やかになります。

午後3時。木道の先に宿泊地である「大日平山荘」が見えてきました。ここまで約4時間。ずっと足を上げて登ってきたためか、筆者は前太ももが攣ってしまうというアクシデントに遭遇。大先輩のみなさんに「大丈夫? ゆっくりでいいですよ」「漢方持ってるからあげましょうか」と心配を掛けてしまうお粗末ぶりでした。

(この事業は環境省補助事業で実施いたしました。)

明日につづく・・・

文:まついただゆき

写真:下城英悟

【2022夏・大日岳登山ツアーレポート】(第4回)

いきなり2.5時間の急登で修行僧の気分に

大日平への登山道は人が通り過ぎるのがやっとという細い道。周囲は木々で覆われているので直射日光を遮ってくれるというメリットはありますが、序盤は単調なつづら折りの山道が続きます。

ガイドの佐伯さんが全体のペースを見ながらゆっくりと引っ張っていってくれるのですが、バックパックを背負っての急登は想像以上のしんどさ。一定の間隔で小休止を取りながら進んでいきましたが、今振り返っても、ここの急登が今回のツアー行程のなかでも一番辛い道のりでした。

90分ほど歩いたところで、ようやく全員が座って休憩できるスペース「猿ヶ馬場」に到着。といっても、猫の額ほどの広さなので、肩を寄せ合っての昼食です。気温も25度を超え、腰を下ろすと体中から汗が吹き出してくるのが分かるほど。「9月なのに夏登山のような暑さですね」と佐伯さんも異常な気温に驚いていました。

30分ほど休憩したら出発。「ここからさらに1時間、かなり急な上りが続きます(笑)。そこを超えれば景色もきれいな湿原なのでがんばりましょう」と佐伯さん。その言葉どおり、はしごや鎖場など、昼食前よりも険しい上りが続きます。

ちなみに、今回のツアー参加者で男性は2名のみ。それぞれ「登山経験はほとんどない」と言いますが、二人ともかなりの健脚の持ち主。険しい道の連続にも軽い足取りで進んでいました。

「猿ヶ馬場」から約1時間、3mほどの長いはしごを登れば、ようやく急登が終了。ここから先は牛の首の骨のように細い尾根の形から「牛の首」と呼ばれるルートへと続きます。

看板を見ると、「称名滝」からここまでの距離はたったの1.67km。約2時間以上かけて登ってきたのに、距離にすると大したことありません…が、これは登山あるある。ようやく、一日目ルートの半分までやってきました。

(この事業は環境省補助事業で実施いたしました。)

明日へつづく・・・

文:まついただゆき

写真:下城英悟